2015年6月26日金曜日

太陽望遠鏡の安全性について

Daystarfilter社のERF(前回UV/IRカットと書きましたがIRカットではありませんでした。<(_ _)>)

太陽望遠鏡で問われるのは、安全性です。我々が小中学生の頃(なんと40年前か~)は、天体望遠鏡を買うと必ずSUNグラスなる付属品が付いていて、これをアイピースにねじ込んで太陽をみていました。焦点部に直付けで、それ以外の減光方法は一切していませんでした。しかも、これがかなり柔で、見ているときに割れたことがあります。加熱が原因だと思いますが、突然目の前が真っ白になって驚いた経験があります。多くの方がこのような経験をしているようなので、当時は当たり前だったようですね。今から思えば、網膜が焦げなくて本当によかったです。今日では、安全性の問題から市販されていないようですが、結構デンジャラスな環境で太陽を見ていたんですね。
さてさて余計な思い出話は置いておいて、現在の太陽望遠鏡は、当時と比較すると安全面ではかなり強化されています。その分価格も桁違いに高くなっていますが、これは仕方が無いことですね。今回PSTを改造する上で、もっとも気になるのは安全面性について、机上ですが検証してみました。

① ERF(Energy rejection filter) ≠ UV/IRカットフィルター
Hα望遠鏡の基本的な構成では、望遠鏡の先端部にERFと呼ばれるフィルターを装着します。一部の機種、例えばDaystar社のQuarkフィルターは、口径80mm以下の場合はERFが不要とされています。メインフィルターに実装されているERFで耐えられる設計になっているのようです。でも、焦点面に近い位置に配置されるのですから、それなりのストレスが加わっているのは確かでしょう。さてこのERFですが、名前の通り太陽からのエネルギーを遮断する機能を持ちます。エネルギーの遮断というのも曖昧ですが、実際市販されているフィルターの特性は、製品によって性能が異なるのがわかりました。代表的なものは、Badder製のD-ERFとDaystarfiter社が販売している下記製品です。
 ・ Baader  D-ERF : 300付近-600nm及び700-1400nmの波長をカット
 ・ Daystar YG530 : 300付近-500nmの波長をカット
BaaderはHαの短波長側及び長波長側をカットしていますが、Daystarは短波長側のみカットしています。Daystarに確認したところ、これは正しいとのことでした。「太陽光エネルギーの大半は、500nm以下の波長成分が占めているとのことなので、これをカットすれば実用上問題無い」とのことでした(ホント?と思いましたが)。ERF後にも本体内蔵のフィルターがあるので、近赤外の光がそのまま網膜まで届くとは思っていませんが、Daystarの回答としては、「気になるようならアイピースにIRカッtフィルターを付けるといいよ!」とアドバイスしてくれました。 ※「漏れているのか!?」と思ってしまいます。
考え方ですが、DaystarのERFの考え方は、その後に配置するメインフィルタ-(エタロン)にダメージを与えない役割を想定しているものと考えられます。その点、Badderは近赤外側もカットしているので、人に対する安全面についても考量した設計になっているようです。ただし、1400nm以上の赤外線は通過するので、確実な保護になっているかは多少疑問が残ります。このように、ERFという名前で市販されているものは、必ずもUV/IRカットではないことを覚えておいてください。

② Coronadoのフロントエタロンフィルターについて
Coronado社やLunt社は、対物レンズ先端に装着するエタロンフィルターを販売しています。これらのフィルターは、先端分にERFが仕込まれているようですが、この特性を評価したデータがあるので、リンクしておきます。テスト対象は1世代前のSM60のようですが、見てのとおり近赤外側はカットされていないようです。長波長側は、後段のブロックフィルターでカットしているようです。 ※ グラフはOD値で表示されています。

③ ブロックフィルター

BF-15:アイピース側: Herzlich Willkommen auf der Astro-Filterseite
Coronadoのブロックフィルターは、2ユニットのフィルターで構成されています。対物レンズ側のフィルターがminERFになっていて、ここで600~700nm付近の光を透過させています。次段は狭小のブロックフィルターで、ここでHα光のみを抽出します。ここも注意が必要です。まず、対物レンズ側に配置されたフィルターは、長波長域は2500nm付近までブロックしますが、短波長側は350nm付近に通過域があります。つまり、このフィルター単体では紫外線をカットしきれていません。PST改造でこのブロックフィルターを使用する場合は、その前段部に400nm以下を確実にカットするフィルターを用意した方が無難です。また、接眼部側のフィルターは656nmのHα光付近のみを抽出するかなり鋭いフィルターですが、このフィルターは波長が750nm以降はまったくブロックしません。つまりは、全体構成できちんと透過波長を管理しないと、安全な太陽望遠鏡は構成できないことが理解していただけたと思います。
 ※ BF-15後段のフィルターのグラフは、750nm以下のデータが無いようです。

④ 結論
私が目指しているPST改造望遠鏡は口径150mmなので、対物レンズ前面にERFは必須です。これには現在使用しているERFをそのまま使用するつもりです。近赤外側はブロックされていないのですが、これはCoronadoのブロックフィルターでカバーするつもりです。なお、多少不安が残っているので、さらなる安全対策として次のフィルターを用意しました。
 ・ Shott社製 KG3 熱線カットフィルター  波長5μmの赤外線までをカット 
 ・ HOYA HA-30 熱線カットフィルター    ※ じろーさん情報

KG3フィルターを使用すれば、IR側は本家の太陽望遠鏡以上にブロックできます。欠点は、光学研磨がされていなので、表面精度があまり良くない点と、このフィルターが熱を吸収する作用でブロックするので、配置によっては冷却が必要な場合があります。現時点で私が考えているのは、31.7mm枠を付けてアイピース側に装着する予定なので、発熱の心配はほぼ無いと思います。100mm以下の小口径望遠鏡であれば、市販のUV/IRカットフィルターで代用可能と思います。でも、きちんと特性は確認してくださいね。大半のフィルターは、1500nm付近より波長の長いエリアを透過しますので。

長くなりました・・・今日は、これでおしまいです



6 件のコメント:

mead 16inch さんのコメント...

私もサングラスを割ったことあります。あのピキッという音と共に目の前が真っ白になったのを今でもくっきり覚えてます。今考えると恐怖ですね。天文を復帰して太陽を見てみたく接眼部につけるサングラスをAmazonで検索して如何に危険かを知り驚きました!(◎_◎;)

@hasyama さんのコメント...

長岡君へ
元気になりましたか? 天気が悪いままでよかったですね。
昔のサングラス、月惑の例会でも割ったという方がいました。当時は、当たりまえのように割れていたみたいですね。噂ですが、溶接用ゴーグル向けのフィルターを使用していたとの声も・・・
今は逆に情報が有り過ぎて、どこまでガードすれば良いのかが分かりません。次に会うときに眼帯していたら、アウトだったと思ってください。

mead 16inch さんのコメント...

怖いっすよ。

Unknown さんのコメント...

私も同じ経験をしています。ただ、反射神経が鈍かったのか、眺めていた右目に熱さを感じました。
その後、右目は視力0.1に低下、左目は1.5・・・卓球やテニスは空振りの連発でした。
熱エネルギーの遮断、難しい課題ですが、何とかなるように感じています。

@hasyama さんのコメント...

ヨネヤンさんへ
みんな割っているのですね。いやーすごい時代でした。今だったら、訴訟騒ぎになっているでしょうね。4~5年前ですが、目の精密検査をした際、左目の視細胞の数が右目よりずっと少ないと言われました。利き目でない左目なので、太陽を見ていたのが要因とは思わないのですが、最近ちょっと疑っています。
熱エネルギーもどこまで遮断するかですが、これはむずかしいですね。私も知識が無いので。遠赤外側はエネルギーが小さいので、極端に恐れる必要は無いと思います。また、CoronadoのBF-5(PST内蔵)を使用すると思いますが、ここでUV/IRはカットしてくれるので、フロントフィルターは主にUVカット機能のある色ガラスでもOKだと思います。

yuji さんのコメント...

私は中学生の頃、友人の持っているD社の15センチ反射望遠鏡で太陽を見た経験があります。友人に太陽の真ん中に白い筋がいつも見える、と言われて「そんなことはないだろう・・」と見に行きました。太陽を見るいわゆる附属品のサングラスを接眼鏡にねじ込んで太陽を見たところ明るい白い筋が・・。これはサングラスが割れているんだ!とすぐに気づき友人に注意したことがあります。なんて恐ろしいことだったんでしょう!しかしD社も15センチ反射望遠鏡に附属品としてサングラスをつけるあたり凄い時代でしたね。